笑顔が似合う君は
2019年8月、大阪松竹座。
「『少年たち』かぁ~この前映画3回見たしな…」
とかなんとか思っていたら、今年の少年たちは”いつもの”少年たちではないことを知りました。
『少年たち 青春の光に…』、、、、、、、、めちゃくちゃおもしろいじゃん!!!
(いや、映画がゴニョゴニョ…とかいう話ではなく、「考えるな!感じろ!」をぶつけられながらの観劇になる予定だったのでこんなにいろいろ考えられるのは!とっても楽しい……!)
私の担当である大橋くんが演じたのは所謂”新入り”の立ち位置にあたる<柿本 拓未>。「一番強いのは笑えること」という考え方で雑居房に新しい風を吹かせ、囚人たちに夢を語らせたりととてもポジティブな存在。
一方で、脱獄の際には看守を足止めするために進まないことを選んだ仲間も、志半ばで息絶えた仲間*1も「脱獄」という目的を達成するためには必要以上に同情をかけることの無いシビアさも持ち合わせた人。
正直めちゃくちゃおいしい!!!!!
雑誌のインタビューで「(主演だった)リューンの数倍のセリフ量」だと言っていたのも納得な重量感!そしてそもそも役柄がめちゃめちゃ良い。
ってだけじゃなくって全体的にものすごくおもしろいお芝居でした!
ということでもちろんいろいろ考えてしまったので、というかとっても楽しかった感想を残しておきたいので、私から見た柿本 拓未くん、そして少年たちのお話をしていこうと思います。
どうしたって大橋担目線で観劇しているのでその辺の諸々をご了承ください…ってくらいに拓未くんの話ばかりです。なんならおおはしくんの話もあまりしてません。
規則正しく規律で縛られた少年刑務所。
繰り返しの日々の中には喧嘩と看守長をはじめとした看守たちからの不当で過剰な刑罰。
そんな生活の中に風穴をあけるような存在としてやってきたのが拓未くんなのではないだろうか。
冒頭の囚人たちがベットにも檻にもなるセットを移動させ、ピシッと揃った動きで刑務所での生活を表現するシーンがとても印象的でした。
そこにやってきた新入りの拓未くんと君麻呂くん。
拓未くんは基本的に「笑顔」の人で、「笑顔が一番つよい」「笑うとなんだか楽になる」(セリフは曖昧です)と、今までの刑務所での生活には異質な考え方の持ち主。
地獄も天国もない 思い込んでいるだけ
このセリフは言葉として私の中に意味を持ってとてもとても響きました。
拓未くんってこんな人。
だけど、どうしても私には拓未くんは全面的にポジティブな人ではなく、ポジティブであろうとする人に見えました。選択的にそうである人。「笑う」ことで何かを封じているというか、プラスのことを考えるというよりもマイナスなことを「考えない」を選択しているような。
あまり言いたくは無いけれど、これはおおはしくん自身に対して私がいつも思っていることです。
序盤の桜木と潤平の喧嘩に力で関わるのではなくそこでも「笑ったもん勝ち」と言うけれど、道理が通らないことに関しては暴力も辞さない姿勢に「柿本拓未」という人間は生きているんだなと感じました。
暴力的なことが嫌いだから喧嘩しなかったわけではなく、「時と場合による」。
この判断には拓未の中に確固とした軸があるように思います。
この「拓未の中には軸がある」と思ったのは「道理が通っていないことが嫌い」が一貫しているなと感じたから。
そもそもの刑務所に来ることになった理由として街のチンピラを懲らしめようとちょーっとやり過ぎてしまったのもチンピラが道を外れた行動をしたからだろうし、看守長への賄賂で優遇されている囚人がいることも囚人を更生させる施設としてあってはならないこと。道理がなっていないじゃないか。
この刑務所に賄賂が横行していることを知った時の表情の翳っていく様は最高で、感情がどのように動いたのかがこちら側にも表情や、食事のスピードが落ち一口の大きさが小さくなる…そんな食事をする仕草からも感じ取れました。
本編全てを通してキャラクターに対して「生きてる…!」と感じる部分が沢山あって、祐二との掃除のシーンもそのひとつ。
虐待を受けていた過去から犯罪を犯すに至った自身の心の動き、生々しい事件の描写…あの場面での祐二の告白はなかなか衝撃的で、それ以前は刑務所には不釣り合いな「おどおどした気弱な少年」に見えていた祐二がここにいることが一気にリアルになる。
ただ、囚人同士がどの程度それぞれの罪状や一歩踏み込んだ話をしているのかはわからないけれど、個人的には新入りの拓未にあの話をするのは少々急展開では…?と思います(笑)
それでも祐二の話に過剰に反応する訳でもなく笑顔で取り留めないことのように受け止めて、「ひいたよね?」と聞く祐二に「そんなことない!」と、「祐二はやさしい」と返すような拓未だからこそ祐二も話せたのかな?と思わせられるような場面でした。とても温度を持って存在していて好きな場面でした。
一方で、脱獄のシーン。
迫る看守の足止めのために囮になろうとする桜木を見とめた直後は「無理すんなよ!」と強い語気だったのに、桜木を置いて先に進むことを選んでからは感情のつまみを一気に下げたような声色で、顔で、「桜木、すまん」とだけ告げ先に進む。
門の直前、銃で撃たれた幸作に真っ先に駆け寄り、抱きかかえた拓未は自らの腕の中で幸作が事切れたことを感じるとすぐに床に寝かせ先に進むことを潤平たちに促す。
この切り替えのシビアさは祐二を温かく受け止めた時の拓未とは対照的に見えるかもしれない。
けれど私はそうは思えなくて、柿本拓未は「人を思いやるひら(拓)いた心」と「目的を達成するための手段をシビアに選択する」両面を合わせもって存在しているんじゃないかな。
もちろんこの二つだけで拓未が成り立っているのではなく、いろんな面を持っている中であくまで私に見えた二つの要素です。
そして、目的の達成のためのシビアな選択は冷徹なだけなものではなくて、そちらを選ぶときには何かを振り払うかのように選択しているように私は感じました。桜木を置いていくときもそう、幸作を床に横たわせ潤平に責められたときもそう、そして脱獄をしようと言ったときも。
拓未くんはどんな人生を歩んできてそのような人間になったのだろうか。
親に捨てられたことを知った君麻呂が半狂乱になったとき、優しくお兄ちゃんのような表情で君麻呂をがっしりと包みこみ、小さい子をあやすように抱きしめた姿を見て、「幼いきょうだいがいたんじゃないかな…」とおもわず考えてしまって。
君麻呂を勇気付けるための「親はなくとも子は育つ」というセリフに今にも「そうや!そうや!」と相槌を打ちそうな勢いで右手を掲げる拓未を見て、あなたの家族は?という疑問が消えない。
順番に夢を語る場面、拓未は「いい人を見つけて幸せな家庭を築きたい」と語るけれど、周囲からは「普通だ」という声があがる。それに対して「そんなことない!」と返す拓未を見て、
それは叶えたい夢なのだろうか、それとも叶わない夢物語を語っているのだろうか…と
拓未くん、家族はいる……?
祐二や潤平は拓未との二人の場面で家族について触れているのに対して、拓未がその話に返す家族の話はありませんでした。本編でわかること以上のバックボーンが語られることはないだろうし、大橋くん演じる拓未くんからどのように感じ取るかは個人の感覚でしかないけれど、
私に見える拓未くんは
幼いきょうだいがいるお兄ちゃんで、大切な人を失う悲しみも知っていて、それでいて悲しみだけではどこにも進むこともできないから笑うことを選んでいて、理想だけじゃやっていけないことがあることもわかってる。
けれど器用なんかじゃなくって、目的のためにはシビアな選択も厭わない様子は少し危うく見えたし、盲目的なようで…
そんな人に見えました。
そんな拓未くんが脱獄を決意するシーンは彼の心が動いているのをとても感じられて好き!
とはいえどんなことを考えているのかはわからないけれど
あのシーンで桜木と潤平が揉めているのを止めるのは一幕と変わって拓未ではなく幸作で、拓未の存在が囚人の考え方を変えたのだなぁと、拓未くんの周りへもたらした影響を感じてうれしくなりました。
そうなると拓未はまた次の方向・段階へと舵をとるし、それが看守の失態を引き起こすこと=脱獄だったのかなぁ。すぐに力で反抗しようとした桜木に「俺だってなぁ!」というセリフ、一度目は自分の中でかみしめるように、そして二度目は桜木に直接言葉をぶつけるような力強さで、そこまで強い思いがあるにもかかわらずすぐに反抗するのではなく看守の思うつぼだからと思いとどまれる強さはどこから来るんだろうね…
2回目の言葉の強さが感情のつまみが一気にフルスロットルになったような様子にやっぱりこの人は感情のコントロールが上手だけど時と場合によっては一瞬で狂犬のようになる怖さがあるなと思った。
ただ、出来るだけ大きな規模の脱獄を成功させ看守たちの大失態となるような行動を起こすことを選んで祐二は喜ぶと思っていたのだろうか。
看守に反抗しようとしたときに「祐二が喜ぶと思うか?」、そういって止めた拓未が選んだのが「脱獄」なのがなんだか悲しい。だっていくら看守たちが間違っていたとしても、脱獄だって褒められるような正当な選択肢じゃないから。
でもあの時の囚人…もとい少年たちが選べる最善は脱獄しかなくて、きっと今までだって数少ない選択肢の中からけして正当とは言えないような選択をせざるを得ない環境の中で生きてきたんじゃないかな……そして刑務所に行きついてしまった子たちなのではないか。
そんなやるせなさを感じました。
劇中で「リュー―――――ン!!!」と叫びたくなってしまいそうな場面がありましたね(?)最後に村田さんと拓未くんについてすこし考えました。
拓未くんにとって村田さんってどんな存在だったんだろうか。
村田さんにとって拓未は囚人の中の一人でしかなかっただろうなと思う。
拓未にとってはどうだったんだろうか。
自分とは違う、住む世界の違う人だと思っていたんじゃないかな…
村田さんは祐二へのセリフでもあったようにその世界との境界線が見えていないけれど、道から外れた、転げ落ちた彼ら(囚人)にはその境界が嫌というほど見えていて、道から外れてしまった時についたシミは一生取れないものだってわかってる。
ラストシーンまでとくに村田と拓未が「二人」として向き合うやり取りはないから想像でしかないけれど、
憧れというかなりたい対象としての羨望ではなくて、村田さんのような人が"いる"ことが拓未にとって救いになっているような…そんなことを考えています。
だからこそ拓未は村田さんにはきっとまっさらでいて欲しかったんだろうし、その気持ちは自分がシミのついた人間だって自覚しているからこそ思っているという部分もあるのではないだろうか。
きっとこのシミはついてしまった本人にしか実感はできないのかもしれない。
だから私には拓未くんの気持ちに実感を持って理解することはできないし、寄り添ってあげたくても向き合うことがしんどい*2。拓未くんの罪を聞いたわたしはきっと「正義感が強いんだね」と言って、「そんなことないよ」なんて困らせた笑顔を浮かばせてしまいそうだな…
拓未くんの大切な人になる人は、きちんと寄り添ってくれる人だったらいいな。そんな人と出会ってほしいな。
決まりきったことをなぞるんじゃなくて未来を切り拓いていける君だから
きっと、ずっと、これからも笑顔で
そして幸せに生きてね。